高たんぱく低カロリーを掲げ、さまざまな事業を展開するTANPAC株式会社(以下、TANPAC)。こうした食への取り組みや、たんぱく質の重要性などについて、TANPACマネージャーの谷川俊平さんと、ドクタートラストの管理栄養士、宮野友里加の2人に語ってもらいました。
谷川さん(以下、敬称略):大学卒業後に上京し、都内のパーソナルジムで勤務していました。当時、トレーニングの一環といいますか、その延長線上に食事の重要性などをアドバイスベースでお客さまにお伝えはすることがあったのですが、「どこでそうした食事を取ることができるか」といった具体的なことを尋ねられても、なかなか回答ができませんでした。
「食事はすごく大事ですよ」と指導していながらも、どうしても抽象的なアドバイスにとどまってしまい、「高たんぱく低カロリーかつ『おいしい』食事を実際に提供できる場があったらいいな」と思ったことが、事業を始めた理由の一つです。
また、社会課題として医学の進歩とともに寿命はすごく伸びたことで「健康寿命」が注目されるようになりました。食事の面からこの課題にアプローチしたいと思ったことも、事業を立ち上げた理由の一つです。
TANPACさんはグリルダイニング「筋肉食堂」をメインとしたレストラン事業、また冷凍のお弁当を法人向けに宅配する「筋肉食堂Office」など通販・中食事業を展開されていますが、レストラン事業がスタートだったのですね。
谷川:もっとも先ほど申し上げたような経緯ですので、飲食店をやりたくて始めた事業ではなく、新しい価値観「おいしくて、高たんぱく低カロリー」を日本中の皆さん届けたいと思ったのがきっかけです。ただ、体験していただかないことには事業拡大にはつながりませんので、最初は六本木というハイスペックなエリアで「体験の場」として飲食店をスタートさせることにしたのです。
「おいしさ」と「高たんぱく低カロリー」の両方を揃えているのは、新鮮です
谷川:皆さんはどちらかというと「嗜好」で食事を召し上がるじゃないですか。たとえば「焼肉が食べたい」とか「お寿司が食べたい」とか。
一方で、僕を含め鍛えている人間は、「機能」としてご飯を食べる方が多くいらっしゃいます。私は変な話、毎日メニューが胸肉でもいいと思っていますし、実際に、会食や週末などを除くと、本当に毎日食べています。けれども、みんながみんな「毎日胸肉で平気ではない」とわかっていますし、いくら高たんぱく低カロリーの食事であってもおいしくなくては続けられません。
加えて、「高たんぱく低カロリー」というと、いまだに「ササミとブロッコリー」、「パサパサしている」をイメージされがちですが、これらを僕たちの新しいブランド「おいしくて、高たんぱく低カロリー」によって覆すことも目指しています。
そもそも、谷川さんご自身が「食」に着目された背景はなんだったのでしょうか?
谷川:学生時代からスポーツに取り組んできたなかで、食が体を作っている認識がありましたので、ずっと興味は持っていました。
また、食をおろそかにすると競技力にも影響あるのもわかっていました。ただ当時は料理もできないし、何食べたらいいかわからず、食の重要性は認識していながらも選択肢がありませんでした。僕らが推奨しているような「たんぱく質を摂取しよう」って教えてくれるようなところもなく、なんとなく刷り込みで「コメをいっぱい食べる」と言われていました。もちろん間違ってはいないと思うのですが、今の現在の知識量をもってもう1回学生時代やり直したらもっと競技力が伸びたかもしれません。
その後、トレーナーという職に就き、体が変わる人、変わらない人をたくさん見てきたのですが、結論を言うと、食事を意識している人がやっぱり変わるのです。この経験も、食への関心が高まった理由です。
ここまで、TANPACさんの「おいしくて、高たんぱく低カロリー」への挑戦を伺ってきました。管理栄養士の視点からみて、たんぱく質はどれくらい重要なのでしょうか?
宮野:たんぱく質は5大栄養素の一つであり、内臓や筋肉などの材料となります。運動している人の場合は、酷使して傷ついた筋肉を回復させるために欠かせない存在です。
一方、当然、日常生活においても大切な存在です。というのも、身体の機能を調整するホルモンや、免疫細胞の構成要素としてたんぱく質が活躍しているためです。
谷川さんもお話しされていたように、寿命の伸びに対して、健康寿命はまだまだ伸びしろがあるといえます。年齢を重ねても健康に、自分の足で歩いて生活を送るうえでも、やはり「たんぱく質」は重要です。
谷川:今のお話とも関連しますが、たんぱく質というと、これまでは運動している方が摂取する栄養素のイメージが強かったと思います。よく「運動たんぱく」とか言うのですけど、これに対して最近は健康維持のために必要な栄養素として「生活たんぱく」への注目が高まっています。
健康をつかさどる栄養素がたんぱく質だと言われているなかで、僕らもトレーニングをしている方以外にも摂取いただきたい、レストランの食事もお弁当も、広くいろんな方々にも体験いただきたいと思っています。
ただ、そうしたときに美味しくないと、どうしても続きませんし、食事は「単発」で終わるものではなく毎日の積み重ねでやっと効果が出るものです。ですので、高たんぱく低カロリーの食事を「おいしく」提供すること、あわせて、こうした食事を通じて健康寿命を伸ばすこと、それこそ人生100年時代に99.9歳まで自分の足で歩いて趣味を楽しんで好きな人とご飯を食べて、人生の密度を濃くすることが僕らの使命でもあると思っています。
ちなみにたんぱく質は、髪とか肌とか爪といった、「美容」「見た目」にも訴求できる栄養素ですので、「エステに行くよりもまずはたんぱく質摂取!」くらい思っています(笑)
おいしさを実現するためのこだわりを教えていただけますでしょうか
谷川:「おいしさ」のために素材から調理方法、提供方法まで、すべてにこだわっています。また、魚や大豆、牛肉など、いろんな食材からたんぱく質を摂取できるようにしています。
お弁当は、自社工場ですべてを手作業で作っているのですが、調理方法も低温調理ですとか、水分が飛ばないようにするとか、もう本当に1個1個こだわって作っています。
食材、調理法ともに真剣に向き合っておられるのですね。商品開発はどのように行っているのでしょうか
谷川:レストラン、お弁当ともに年に何度もメニューを見直しています。このうち、2回は「アップデート」の意味合いで大きな変更を行っています。お客さまからいただいたお声を反映したり、「今まで試してみこなかったカレーライスやってみよう!パスタやってみよう!」と新しいメニューに挑戦したり、トライ&エラーでお客さまが喜んでいただけるようなメニュー開発を続けています。
お弁当ですと1食あたりどれぐらいたんぱく質が摂取できるのでしょうか
谷川:お客さまの用途目標に合わせてコース設けており、それぞれで異なってきます。おいしく食べながら体脂肪を減らす方向けの「ダイエットコース」は20グラム強、トレーニングと合わせたカラダづくりをしている方向けの「エブリデイコース」はおよそ32グラム、とにかく強く大きくなりたい方向けの「バルクアップコース」は50~60グラム摂取できます。
そもそも、たんぱく質って1日どれくらい必要なものなのでしょうか
宮野:日本人の食事摂取基準では、成人男性は65グラム、成人女性は50グラムのたんぱく質を摂取することが推奨されています。しかしこれは、あくまで摂取不足を防ぐための量であり、成人男性は100グラム、成人女性75グラム程度摂取するのが理想です。
また、2019度の「国民健康・栄養調査」では、たんぱく質の平均摂取量は20歳以上の男性で78.8グラム、女性で66.4グラムであり、理想的な摂取量には10~20グラム程度不足していることがわかっています。
さらに、日常的に体を動かすことが多い方は、運動中にたんぱく質がアミノ酸として消費されるため、必要量は増加します。
ですので、推奨量を満たしていない人は、まずこれを目標に、推奨量をクリアできている人は推奨量10~15グラムを、そして日常的に体を動かすことが多い人は、推奨量プラス 20グラム程度を目標にするのがおすすめです。
食事にTANPACさんのメニューを取り込むと、必要なたんぱく質が手軽に摂取できそうです。ちなみにTANPACさんのメニュー以外で、高たんぱくな食生活を目指す場合は、どうしたらいいでしょうか?
宮野:おすすめは「いつもの食事にプラス1品」を意識することです。卵や豆腐、納豆、ツナ缶、ヨーグルトなどの食品はたんぱく質が豊富なうえ、手軽に食事に取り入れることができます。このような食品を活用していきましょう。
たとえば朝食に高たんぱくヨーグルトを追加するとおよそ10.1グラム、納豆を追加するとおよそ8グラム、もしくはサラダにツナ缶をプラスするとおよそ13グラム、たんぱく質摂取量を増やせます。冷蔵庫にストックして継続的に摂取できる環境を作ると良いですね。
また、ダブルでたんぱく質を取るのもおすすめです。イ納豆ご飯に卵もプラスすれば追加で6グラムたんぱく質が取れます。あとは外食時に、牛丼(たんぱく質19.6グラム)よりも親子丼(たんぱく質28.9g)を選ぶのもありですね!
飲み物の場合は、牛乳や豆乳を取り入れるとたんぱく質が取れます。ただし、飲みすぎはカロリーの取りすぎもつながるので、1日1杯までを目安にしましょう。
コンビニで成分表示を見てみるのも、どういったものにたんぱく質が多いのか知る機会になりますし、選ぶ基準にもできます。
ここでもう一つ、教えてください。貴社では高たんぱくとともに「低カロリー」も意識されていると思います。
谷川:日本人の食生活の欧米化が進んでことで、たんぱく質に注目されるようになるなどいい面もあれば、一方では脂質や糖質を摂取過多になりがちですので、僕らが推奨している食事では、これらを少し抑えられるようにしています。
ただし、脂質や糖質も人間にとって必要な5大栄養素ですので、完全に抜くような極端なことはせず、バランスよく食べることが何より大切です。もっとも今のこの日本人の食生活が、どうしてもこの脂質、糖質多めに傾きですので、ちょっと食生活を変えて、カロリーを抑えつつ、不足しがちなたんぱく質を取ってあげることが大事なのかなと思っています。
脂質や糖質を摂取しすぎると、どのようなことが起こるのでしょうか?
宮野:どちらにも共通して言えるのは、消費しきれずに体内で余ると中性脂肪として蓄えられ、体脂肪になってしまう、ということです。
糖質の取りすぎは血糖値を上昇させ、血管に負荷がかかることで動脈硬化を引き起こします。一方の脂質は肉やバターなどに多い「飽和脂肪酸」と、魚や植物油に多い「不飽和脂肪酸」の大きく2種類に分けられます。飽和脂肪酸の取りすぎはLDLコレステロールや中性脂肪を増やしてしまいます。一方の不飽和脂肪酸はLDLコレステロールを下げる作用があります。
LDLコレステロールが高と動脈硬化の原因になります。さらに動脈硬化は放置すると、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病につながるため、食事の栄養バランスが偏らないように日頃から心がけるのが大切です。
実際、最近はLDLコレステロールが高い方や、動脈硬化が気になる方は年齢・性別問わず増えています。体質が影響している方ももちろんおられるとは思いますが、谷川さんが仰ったように、食の欧米化で肉や動物性の油脂の摂取量が増えたことも、少なからず影響しているのではないでしょうか。
食事に加えて、日常生活で意識したほうがいいことってありますか?
宮野:「運動」までいかなくても、「フィジカルアクティビティ(身体活動量)」を増やすことは日常的に意識できるといいと思います。世の中が便利になっていく中で、洗濯は乾燥まで洗濯機に頼るようになりましたよね。それによって「干す」という動きがなくなっています。便利な方向に進むことはいいことなのですが、こうした小さな変化の積み重ねによって、昔よりも使わない筋肉が増えているなと感じています。
たとえば「3階までは階段を使う」「歩いて外出する機会を増やす」「早歩きや肩幅程度の大股歩き」「ストレッチで体の可動域を広げる」などが挙げられます。
このような日常的に実践できる工夫を取り入れて、活動量を増やす意識を持ってほしいです。
谷川さん、最後にTANPACさんの目指している姿を教えてください
谷川:企業理念「食で日本を強くする」の実現です。僕らが子どものときに「ミロ」という飲料が流行り、当時は「ミロを飲んだら背が伸びる! 運動力が上がる」といわれていました。筋肉食堂の食事も、子どもたちから「食べれば大谷選手になれる!」とか、大人たちからは「健康かつ綺麗になる!かっこよくなる」と思われるようになってほしいと願っています。
「たんぱく質で日本を牛耳りたい」ってよく言っているんですけど、性別年代を問わず、高たんぱく低カロリーの食事をスタンダードにしたいです。そのために粛々とコツコツとやっていこうと思います。
宮野:「食で日本を元気にするっていう理念」は、ドクタートラストの理念「元気で健康な人を、働く人を増やす」に非常に通じるところがあると感じています。やっぱり、こういうパワーがあればこそ、もっともっと日本でよくなるのではないでしょうか。