TANPACさま記事

TANPAC 中食事業部 商品開発担当の森裕章さまにインタビューしました

高たんぱく低カロリーを掲げ、さまざまな事業を展開するTANPAC株式会社(以下、TANPAC)。TANPACでは、中食事業※として宅配冷凍弁当を一般家庭向けに届ける「筋肉食堂DELI」、およびオフィス向け福利厚生サービス「筋肉食堂Office」を提供しています。選べるお弁当のメニューはおよそ100種類!
高たんぱく低カロリーかつおいしいお弁当はどのように生まれるのか、TANPAC中食事業部で商品開発を担当する森裕章さんに、ドクタートラストの管理栄養士、宮野友里加が伺いました。

(※)中食:惣菜店やコンビニエンスストア・スーパーなどでお弁当や惣菜などを購入したり、外食店のデリバリーなどを利用して、家庭外で商業的に調理・加工されたものを購入して食べる形態の食事

宮野:森さんは2018年にTANPACに入社されるまで、およそ13年にわたりフレンチの料理人として働いてきたと伺っています。キャリアチェンジされた理由はあるのでしょうか

森さん(以下、敬称略):前職は本当に時間をかけておいしいものを作るようなところだったのですが、もう宇宙のような、無限の広がりすら感じていました。料理って食材も無数にありますし、いくら勉強しても、それこそYouTubeに上がっているような動画を見ても知らないことばかりでキリがないのです。
TANPACは、高タンパク低カロリーをモットーにしている会社です。栄養素の概念をきちんと料理に落とし込んでいけば、つまり料理に制限をかければ一つの道を究めることができるのではないかと思い入社を決意しました。
また「カロリーが高いものはおいしい、おいしいものは高カロリー」と一般の人たちはよく仰いますが、「おいしくて低カロリー」が実現できることを知識と経験で知っているからこそ、技術で再現していこうと考えたのも背景にはあります。

宮野:TANPAC入社後は、「筋肉食堂」で料理人として腕を振るったのち、2021年に現在の中食事業部に移られたのですよね

:僕はそのとき水道橋の店舗に在籍していたのですが、新規事業立ち上げに合わせて異動オファーを受け、「じゃあ、いきます!」と快諾しました。
先ほどと同様、「冷凍のお弁当」という制限がかかることで「何ができて何ができないのか」に興味があったためです。社長からも「今やっていることは正しいのか間違っているのか、どう改良できるのか自分で見て判断してほしい」とミッションを与えられました。

宮野:異動当初から、お弁当の商品企画に携わってらっしゃったのですか

:もともとは通常業務の担い手としてジョインしたのですが、新商品や季節の商品の開発がなかなか進んでいなかったことから、「商品企画もやってみないか」と声をかけてもらいました。2022年春のことです。
経営層からの、ビーフシチューやパスタ、カオマンガイ作ってほしいといった要望を受け、レストラン事業部に原価や栄養価の計算を手伝ってもらいつつ、1ヶ月ぐらいで新商品を作ったのが最初。その後「じゃあ次のシーズンも、その次のシーズンも」と続けていくうちに信用が得られるようになり、改めて商品企画の担当を打診されました。

宮野:最初は提案に合わせて商品を作っていたということですか

:勉強しながら進めていきました。レストランとお弁当では好まれる味が違いますし、衛生の観点からお弁当では使えない食材など、レストラン事業部とは違ったルールがあるためです。
以前の商品ラインナップは生姜焼きや塩麹焼き、ハンバーグなど、コースごとに3~5種類、全部で20種類程度でした。そこに一気にラインナップを増やしてほしいと言われ、ラタトゥイユやキーマカレー、それにクリーム系の商品を開発していきました。
クリーム系の商品は、レシピ通り生クリームを使用するとどうしてもカロリーや脂質が高くなってしまうことから、それに置き換わる食材を探し求めました。現在はクリームパスタやグラタン、それにフリカッセというフランスのクリームソースのメニューも商品化、異動当初にくらべるとおそらく60種類ほど増えました。
また、付け合わせもキャベツやブロッコリーだけだったところ、「10種類くらい増やしてほしい」と依頼を受けまして、キンピラやサツマイモ、カリフラワーなどもピックアップ、さらにジャガイモなども取り入れてリリースにつなげました。

宮野:新たな商品が続々と生まれていったのですね。森さんは、どのように商品を企画しているのですか

:商品案は本当に何気ないところから、ふっとやってきます。たとえば街角の風景や看板、それに歩いている人の服装や髪型なんかも全部気にして見ていると意外とそこからアイディアが生まれるのです。
少し懐かしいデザインの容器を見たら、過去のレシピの記憶から「オニオングラタンスープをやってみたいな」と思い出して、「うちでやるなら、多分チーズはこれで、オイルは使えないからこれを使って、できた!」と頭のなかで完成します。
ただ、頭のなかで描いたものを実際に作ってみても、なかなかうまくいかないものです。というのもうちの会社の難しいところであり、そしてやりがいでもあるのですが、「おいしいレシピ」を忠実に再現すると原価がかかりますし、何よりカロリーが高くなってしまうためです。
ならば……と食材を削り、原価・カロリーを抑えただけだと今度はおいしくないし、おもしろくもない。ですので、おいしさを補うのに「こうしてああして」と試行錯誤を繰り返し、なんとか作り上げています。最終的に経営層を交えた試食会を行い、原価も栄養価もクリアしてリリースに至ります。

宮野:「商品開発室」のような場所があるものと想像していました

:栄養価に関しましては、正直頭が痛いところではあります(笑)
けれども、PFCバランス(栄養摂取の摂取比率)を優先して味が落ちることは、会社としてあってはならないことです。といいますのもジムで提案されたメニュー、つまりトレーニングする人向けの食事が必ずしもおいしいとは言えず、「もっとおいしく、かつバリエーション豊かにできないか」の想いから当社が立ち上がった経緯であるためです。おいしさは外せない、けれども高たんぱくで低カロリーでなくてはならないということで、本当に全体のバランスが重要です。
具定例を出すと、うちのタルタルソースは市販品にくらべると脂質が20分の1程度に抑えられています。市販のタルタルソースは卵と油を使用しているのに対して、当社は「食べ合わせ」の面で工夫をしています。どうしてもタルタルソース単体で食べると、大手さんの市販商品においしさでは勝てないのですが、これを照り焼きチキンと一緒に食べると違いがわからなくなるのです。

宮野:照り焼きチキン専用のタルタルソースということですか

:そうです。照り焼きチキンと合わせてこそ真価を発揮するタルタルソースになるように調整しているのです。

宮野:せっかくなので味・食感について教えてください。学生時代に大量調理でパスタを作ったことがあるのですが、パスタって出来上がりから時間が経つと、どんどん美味しくなくなっちゃいますよね。ところが、「筋肉食堂office」のパスタはチンして食べても、茹でたてのおいしさそのままでびっくりしました。秘訣などはあるのでしょうか

:そのお気持ちは、すごくよくわかります。小麦を使った麺は、茹でたてはおいしいものの時間とともに劣化します。パスタの中にソースが入って染み渡ってしまうとブヨブヨになり、食感がなくなってしまいますよね。これは小麦の性質なので、茹で時間を短くしようが何しようが変わらないのです。
筋肉食堂のお弁当の場合、大量調理に加えて、さらに冷凍の工程があり、おそろしく制限がつくのですが、そうしたなかでおいしさを保つために小麦ではなくエンドウ豆を原料とする麺を採用しています。豆が原料ですので栄養価が高いのはもちろん、冷凍からチンしても食感は消えない持続性に特化しているのです。この麺にたどりつくまでには、候補が20種類以上ありました。
ちなみに新たな麺が見つかりましたので、少し先の展開ですけど、ぜひ食べていただきたいです。

宮野:商品としてもリリースがなされた後も、常に新しい食材を探し続けているのですね

:当社の経営層からも「肉の新しいのはないのか」とか、「魚のいいのはないか」と言われ続けています。
話は前後しますが、全体の商品設計の流れをご説明すると、大きく商品ターゲットとして、「こういう年齢とかこういう人に食べていただきたい」に始まり、「こういうコースを作っていきたい」、そしてタンパク質量などが決まっていきます。もちろん、糖質もグラム単位での制限が設けられています。
そうしたなかで、まずはメイン食材を検討していきます。たとえば魚でサバを選んだとしたら、冷凍してもおいしいかどうかの検討から始まり、魚に合う副菜、さらに食べ合わせの議論へと移っていきます。
常に原価、栄養価、そしておいしさの3軸で検討を進めていますが、それこそ原価は変動がありますので、最終的に「原価が増加基調だったから」という理由で最終的に商品化までいなかったケースもあります。

宮野:原価は外部要因も多いですよね。ほかに制約はあるのでしょうか

:現場へのオペレーションの落とし込みも大きな壁です。試作を単品で作ったときの分量と、実際に大量調理をするときでは、味が変わるというハードルが一つ、さらにパーツが増えると工数が増えるハードルもあります。それに加え僕や10年くらいの経験者じゃないとできないような難易度の高い調理過程を盛り込んでしまうと、仕事の属人化が発生しますので極端な話、ちょっと慣れたアルバイトの方でも教えればきちんとできるような調理内容にしなくてはいけません。
なおかつ安全性も欠かせません。先ほど例に出したラタトゥイユでも「温かいまま放置しない」といった教育をスタッフに行っています。
僕は難しいほう、なんでも複雑な工程を踏んでやっていくのが好きなのですけど、それを1からやっていると仕事が終わらなくて人件費もかかるため、既製品を頼って省力化することもあります。どれほど大事な工程を残せるか見極める力も重要だと思っています。
今、本当に冷凍技術も向上していますし、既製品のソースのレベルが上がっています。ですので既製品だけでも美味しくは仕上がりますが、それでは専門性がないですし、PFCバランスも決してよくはない。やはり僕は料理人である以上、筋肉食堂らしさを出したい。他社が真似できないものを作りたい。「これってどうやっているのかな」と一目ではわからないようなひと手間を入れるようにしています。

宮野:先ほどは「原価、栄養価、そしておいしさの3軸」とおっしゃっていましたが、あれこれ加味すると5軸くらいありそうです

:人気メニューの一つである「ビーフストロガノフ」も筋肉食堂ならではの、レストランにも協力してもらうという独特の方法を駆使しています。当社の経営層は、こってりした料理よりシンプルなものが好きなんですが、このビーフストロガノフについては「すごくおいしい!」と言ってくれました。このことは、僕のなかで誇れるポイントといいますか、ちょっと嬉しく感じています。

宮野:ビーフストロガノフはドクタートラストでも人気商品の一つです。企業秘密も多いと思うのですが、公表できる範囲でこだわりポイントを伺うことはできますか

:ビーフストロガノフに使っているのは、うちのレストランで出しているステーキの筋肉にあたり、もともと肉質が非常によい。けれどもレストランでは、筋を使ったメニューがありません。ごっそり出た筋は、冷凍して取っておこうにも場所がいりますし、まかない食のカレーを作るにしても煮込む暇がない。「ならばうちの工場(中食事業部)でもらいますよ」と提案し、全店舗分の筋をいただいています。
煮込みには全体で2時間ほどかかるのですが、先ほどお話ししたように、こうした手間が僕はすごく好きなんです。あとは、食材をどうしても破棄したくないという気持ちもあります。利益を出す視点もありますが、破棄されたかもしれない食材をおいしく食べていただきたいのです。

宮野:会社全体で作り上げているのも、おいしさの秘訣だったのですね。作り手の立場としてはどのように食べてほしいですか

:ダイエットやトレーニング頑張っている人たちに、わくわくしながら食べていただきたいです。トレーニングのご飯ってみなさん、栄養補給のために我慢して食べている方もいらっしゃいます。けれども、食事はやはり楽しみじゃないですか。チンして開けたら「おお!」と盛り上がってもらえたら嬉しいです。

宮野:ありがとうございます。それでは最後にメッセージをください!

:自分が満足、納得できるのが大事だと思っていますので、100点がつけられるような商品をどんどん作っていきたいです。

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